以前技工学校時代の同級生から電話がありました。仕事が無くて困っていると言います。
何でも今までお世話になっていた歯科医院が代がわりをし、
若先生が技工物の出来具合と料金に不満で、仕事を打ち切られたらしいのです。
この若先生は補綴物の調整が面倒で、無調整で口腔内に入る物を望んでいたようで、
バイトが高くて困っている旨を伝えていたらしいのです。
しかし、同級生の技工士は、若先生の使用している厚めの咬合紙が原因で高く感じているだけであり
自分の使用する50ミクロンのものなら大丈夫なはずだ。と憤慨しながらも、彼なりの試行錯誤はしていた様である。
そんな時、大手の技工所の営業マンがやってきた。
若先生は営業マンに自分の望みを伝えて、試しに技工物を出してみた。これがけっこう良かった。
まず模型がきれい そして美しい研磨状態 なにより料金が安く新しい技術も導入していた。
しばらくは、この大手の技工所に仕事をたのむことにした。個人の技工所に仕事をお願いする理由がないのである。
こうして、この同級生の仕事は無くなった。
この技工士は腕が悪かったわけではない。とても器用な人で、技工学校卒業後 2年間有名な技工所で修行し、3年めには独立開業した。
しかし彼は、パチンコが大好きでちょっとしたひまがあると、パチンコ店通いをするのである。それに加え勉強嫌い。
当時けっこう稼いでいたのに、技工室への設備投資も全くしていなかった。
彼は、高価な技工用の機材はいらないと豪語した。
レーズなどは、ホームセンターで売っているグラインダーを使用し、エンジンはベルトエンジンである。
私は彼に一度、「そんなエンジンで回転数不足や、軸ぶれの問題はないのか?」と訊ねたことがあった。
彼は「そんな不満は一度も感じたことは無い。」と言う。
私が歯科医師なら、「ベルトエンジンで回転数不足や軸ぶれを感じない技工士に仕事は出さないぞ。」と思ったが口には出さなかった。
仕事が減った彼は、営業に回る事を嫌がった。
何も特徴の無いワンマンラボでは、料金を安くしたぐらいで仕事がもらえるほど「甘くない」のを知っていたのでしょう。
次々と仕事が減り、技工歯会や同級生のツテで義歯の仕事をもらって細々と暮らしていたらしい。
挙げ句の果てには、仕事を取られた当の大手技工所の下請けまでもしていたようです。
そのうち技術不足と言うことで大手技工所にまでもことわられてしまった。
彼は決して下手ではない。こつこつ努力したほかの技工士のレベルが上がっていたのに気づかなかったのです。
器用さが災いしたのでしょうか、今では代行運転手をしているそうです。
彼の失敗の原因は次の4つです。
1、基本的技術の向上を怠った
2、新しい技術の習得を怠った
3、設備投資を怠った
4、仕事に対しモチベーションの低下
これらを克服していきましょう。